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「――俺でよければ、本当に、嬉しい」
「……本当に?」
不安に揺れる、私の言葉。
「もちろんだ!」
それを、一瞬で吹き飛ばす、ユキオの力強い言葉。
その言葉にようやく、胸の奥が、奇妙な暖かさに包まれて。
「これから、よろしくな。ミチ」
――ミチ。ユキオに告白した、『私』。
「……うん」
受け入れてもらえた私も、柔らかく頷き返す。
にやけない自信なんて、私にも、ない。
想わず頬がゆるみ、微笑み。
恥ずかしさから、手で頬を押さえようとして……。
『――最初の関門突破、おめでとうございますぅ♪』
その時、だった。
耳元で、怪しく溶けるような声が、聞こえたのは。
「……っ!」
びくりと、肩を震わせて、左右を見回す。
「どうか、したのか?」
突然のことに驚いたのか、心配そうな彼。
「う、ううん! 嬉しすぎて……本当、うれしくて……」
目元を涙でにじませながら……嬉しいという言葉を、かみしめる。
――少しだけ、苦みを誤魔化して。
――胸の中でわき上がる、『自分』との違和感を。
「あっ、そろそろみんな来るな」
時計を見て、急いで準備を整える彼。
「また、後でな」
「うん。また、後で」
そう答え返すと同時、彼は大急ぎでグラウンドへ。
私もまた、他の男子生徒に挨拶をしながら、今日の仕事をするため部室を抜け出す。
――誰にも、『自分』の変身を気づかれていないことに、安堵し。
『さぁ、続けましょうかぁ? この、幸せな一時をねぇ』
――私にしか、聞こえない。
――悪魔の笑いへ、苦味を感じながら。
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