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蓼科へ逃げこんで、冬彦から身を隠したつもりだった。まさか、この牧場が全ての始まりだとは思っても見なかったから、順当な逃げ場だと思ったのだ。
だが、そんな怜の行動も冬彦には想定済み。
真夏のヒリヒリする日差しが牧場を包む、高原の午後。陽炎のゆれる草原のその隣のリゾートホテルの貴賓室では、冬彦がコテージを双眼鏡で見張っていたのだ。彼女は必ずここに逃げ込むと思っていたが、予想通りだとほくそ笑む。
ただ怜を手に入れる為だけに、ホテルを買い取って準備したのだ。
彼がこのホテルのオーナーになった事も、管理人家族をにせの旅行キャンペーンの当選通知で誘い出した事も、彼女は何も気が付いていないらしい。
「怜、待ってろよ。お前に、もう一度僕の女になる為の教育を施してやる」
「無罪放免なんかには、絶対にしないぞ!」
冬彦は調印式の間中。彼の脅しに蒼ざめて座る、目の前の心乱れている怜を見つめながら。心の中で固くそう誓った。
彼は、とてもご満悦だった。長い時を経て、ついさっき怜をまた抱いた。記憶にあるままの怜の身体。思い出すだけで心が蕩けそうだ。残すは、キツイお仕置きあるのみだろう。
そこがまた、楽しみなのだ。
実業界に知られた危険物。東印冬彦は、そう言う男だ。
そして今。
事は、彼の企み通りに進行中だった。脅されて震える怜が、すぐそこに居る。美味しい獲物だ。
夜も十一時を過ぎると辺りは静かになり、牧場も真っ暗になる。
その闇の中で、冬彦は暗躍中だった。
全く久しぶりのご乱行ではある。だが楽くて堪らない。
二階の寝室のベランダまで雨樋や戸袋の端を使って、素手でよじ登った。
ジュリエットを襲いに行くロミオみたいだ。
怜は戸締りをして安心して眠って居るらしいが、夏の事なので窓は網戸になったままでいる。不用心な女だ!後で言って聞かせなければいけないだろう。
そっと開けると、部屋の中に侵入した。
ベッドは部屋の真ん中に置かれていた。大きなクィーンサイズのダブルベッドだ。彼は、少し笑ってしまった。少女の頃から、大きなベッドが好きな女だった。
古びた実家の洋館でも、まだ幼い少女だった怜の部屋は、大きなベッドに占領されていたのを思い出した。
彼女は良く眠っているようだ。
昔から寝つきの良い女だった。彼が遅く帰った日などは声をかけて横へ避かさないと、真ん中で眠ったままだったのを思い出す。
懐かしい思い出が、不意に溢れた。
昔のように、チョットだけ声をかけて見るかな!
「怜、ただいま」、軽く髪をなでてやる。
「僕も寝るから動け」、彼女の頬を突ついてみた。
彼の声に怜が反応した。反射的に動くのを見て、喜びが心に湧きあがる。
彼女はまだ眼が覚めきっていないようだから、もう少し楽しもう。
ベッドに横になると、怜の身体を抱き寄せて。耳元であの頃のように囁いてやる。
「愛してやるから脱ぐんだ」、手を彼女の寝間着の中に差し入れて見る。
やっと・・何かがおかしいと気付いたらしい。呻いて必死に目を覚まそうとしている怜。
「いや、誰なの・・・離して」、パニックになっているようだ。本当に楽しい。
「お仕置きしてやると、あの時ハッキリと言って置いたはずだな」
「なぜ逃げた」
「大人しく罰を受けるんだ、怜」
怜は恐怖で、本当に如何にかなりそうだった。
このベッドの中に居るのは間違いなく冬彦だと分かる。途端に身体で償わせると言った彼の言葉を思い出した。「お仕置きしてやる」と、抱きしめて言っていた冬彦。
何故!冬彦がベッドの中にいるのか、訳が分からない。
いくら覚悟していても、やはりこんな風に登場するなんて・・冬彦が怖い。
「お前の覚悟を見せて貰おうか。他の男に肌を許すなんて、どうやって罰してやろう」、息もできないほど、キツク抱き竦めた。
チョットだけ。言葉で、甚振ってやった。
震える怜の身体、本当に怖がっているらしい。
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