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そろそろ、次へ進もう。
唇を激しく奪いながら、怜を身体の下に押さえ込んだ。
身動き出来ない。ベッドの上で、強く冬彦の腕の中に捕縛され、怜は目を瞑る。
観念した。
昔もこうやって、強く激しく愛してくれた。まだ若かった懐かしい冬彦の身体を、不意に思い出した。裏切って生きて来た日々のなかで、罪深い事に決して忘れられなかった。
冬彦の声。彼の肌の匂い。三条に抱かれていても、心の中には何時もこの男がいた。
それが哀しい女の性だろう。
眼を閉じて、ただ彼が罰を与えるのを待った。これが一番自分に相応しい。
抗う事を止めて、急に大人しくなった怜を冬彦は訝しんだ。
「何を考えているんだ。大人しくすれば、罰を逃れられるとでも思っているのか」
少し脅してやる。
「あなたの手で処分して欲しいと、お願いしたわ」
「私の罪は深い」
「あなたを裏切って置きながら、三条に肌を許す時もあなたの事を想って抱かれるような。私は、汚い女なのよ」
涙を流すまいと噛みしめる唇に、血がにじむ。
「殺して」、呟くような怜の声。
震えながら、彼が罰を与えるのを待っているらしい。
「高貴な血か」、冬彦はそう思う。
言い訳もしない怜。罪を受け入れ、裏切りの代価を払おうとしている。
「殺して欲しいのか」
おかしな事になって来たと冬彦は思った。怜が涙の溜まった眼で、下からじっと見つめている。
「恋しい男」、冬彦をずっと愛してきた。
もう何をされても構わない。この男の子供を私は産んだ。生涯で一番誇れる大事な宝物を、私に与えてくれたただ一人の男だ。
怜の唇が動く。
「どうか、あなたの手で殺して」
怜の首に片手をかけて、頸動脈の上を押える指に力を込める。
唇が「ありがとう」、と動く。
その時になって、やっと。冬彦はこの女が自分への愛を捨て切れず、三条との暮らしのなかで苦しんで生きて来たのだと知った。
冬彦は戸惑いながら。押し寄せた喜びに圧倒されて、怜を強く抱き締めた。
「もう一度だけだ」
「一度だけチャンスを遣る。僕の女にしてやろう」
「裏切りは二度と許さない」
【いいな】と。きしる心が呟いた。
それ以上は何も言わず、強引に怜を自分のモノにした。
最後に抱いた時のように、熱く激しく奪っていく冬彦。猛々しく怜に愛を受け入れさせて。
何度も、繰り返し愛し続ける冬彦の腕に抱かれて、彼女はただ揺蕩うだけの頼りない女になった。冬彦はチョット・・遣り過ぎたかもしれない。
彼が腕の力をゆるめた時には、怜は意識を失っていたのだ。
この女は、自分をずっと愛し続けて来たのだと知ってしまった喜び。眩暈がする程の喜びに浸って。神が与えたもうた喜びを、思う存分に満喫した結果だった。
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