第1話  東印 冬彦

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 ・・*今日も愛の夢は続いているのだが。  ここに来て、それはチョットだけ困ったことにもなってもいる!*・・  *春彦は・・本当に困っていた*  新しく父になったばかりの、冬彦という名前の実の父は。母を独占していて、誰にも分けようとしない。  春彦とは二十も歳の離れた妹を産め言っては、何時も母に迫っている。毎日のように母を困らせているのだ。  おまけに、「もう仕事は飽きたから。会社は全部、春彦にくれてやる」と言う。  こんな面倒な事になると解っていたら、三条の父の手紙なんか燃やしておけば良かったと・・深く後悔した。  東印冬彦は全く厄介な男だ。「どうしてこれが僕の実の父親なんだ」、と思うだけで溜息がでる。  「三条まり子は、実は東印怜だ」、と教えてやった事を、もっと感謝しろと言いたい春彦なのである。  *そして秘書も、困っている*  冬彦はさっさと結婚してしまい。勝手に長期休暇だと言い出して、三か月も仕事を勝手に休んでしまった。おまけに新婚旅行にも、長々と出掛けて行った。  しかも、である!「後は適当にやって置け」、と勝手なことを言う。  本当に適当にやったら、後でどんな目に合わせられるか分かったモノではない。彼の性格は、良く解っているのだ。  それに、美しい冬彦夫人も問題だ。  何故か冬彦は彼女を、「怜」と呼ぶ。  とても気品があって、あの調査書に書かれていたような売春婦上りには見えない。美しくて聡明な、お姫様のような女だ。  つい見惚れていると、冬彦に恐ろしい眼で睨みつけられる。 「誰か助けて」と、いつもと思っているのだが。救いの手は何処からも伸びて来ない。実に哀れな境遇に陥っているのである。    *その怜は・・本当に困っていた*  冬彦の子供をまた、身籠ってしまった。もうすぐ四十歳だと言うのに、春彦に何と言ったら良いのだろう。二十歳も違う春彦の妹が、怜のお腹の中に宿っているのだ。  とっても、恥ずかしい。  それに問題は冬彦だ。もし冬彦に似た娘が生まれたらどうしよう。きっと、意地悪を言われる。  本当に面倒だと思う。  それでも、毎朝。冬彦の腕の中で目覚める自分を思うと、それだけで頬がそまる。  全てを賭けて、怜は東印冬彦を愛しているから。  *冬彦は・・楽しくてたまらない*  怜は内緒にしている積りらしいが、お腹に子供が宿ったことは直ぐに分かった。カノジョの事なら何でも知っているし、知りたくてたまらない。  春彦の成長を見守る事は出来なかったが。今度こそ、怜が産む子供を自分の手で育てると決めている。  怜を取り戻して、戦争が彼から奪い去った愛の夢を取り戻した。  これからは、ここで。怜と一緒に、生きていく。  全てを賭けて愛している、怜と息子の春彦と・・そしてたぶん、生まれてくる子供は娘だ。  クスッと笑った。(彼は産婦人科医から聞き出して、怜が宿している子供が娘だと、すでに知っているのだ)
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