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その瞬間、俺はぶったまげて立ちすくんでいた。画面に映し出されていたのは、五年前に俺が召喚した悪魔だったのだ。しかもブランドもののスーツに身を包み、百万円を軽く超えるであろう高級時計を腕に付けている……。
呆然としている俺の目の前で、悪魔は語り出した。
「私はね、五年前までホームレスをしていたんですよ。しかし一念発起して必死で働き金を貯め、会社を設立しました。今や、従業員は千人を超えています」
そう言って、ふんぞり返る悪魔。すると、番組の司会者が険しい表情で尋ねる。
「しかし、あなたの会社は名前の通りのブラック企業だと、もっぱらの評判ですよ。劣悪な環境で、従業員を働かせているとネットなどでも話題です。その辺りを、どうお考えですか?」
「はあ? まったく気にしてませんね。言いたい人間には、言わせておけばいいんです。少なくとも、私は千人の従業員の面倒を見ていますから。辞めたい奴は、辞めればいいんです。金を稼ぎたい奴だけ、ウチの会社に来ればいい」
だが俺は、そんなやり取りなどほとんど聞いていなかった。
さっき悪魔は、五年前はホームレス同然だったと言っていた。つまり、俺が召喚した時だ。確かに悪魔は、俺があげたジャージ以外は何一つ持たずに、俺の前から姿を消した。
それから五年の間に、千人の従業員を擁する会社を経営する実業家へと変貌したのだ。
いったい、どうやって?
俺は考えた。実は、悪魔には魔法の力があったのかもしれない。それを巧妙に隠していたのか。
いや、違う。
俺は、悪魔の言葉を思い出した。「ケチで金にうるさく非人情なだけなんだよ。それ以外は、普通の人間と同じようなことしか出来ないんだ」と言っていたのだ。つまり、ケチで金にうるさく非人情という特性をフルに活かし、ホームレスも同然の状態から五年であれだけの規模の会社を造り上げた。しかも、その会社は今後さらに大きくなるだろう。
つまり、今の世の中において、悪魔は魔法の力など必要としないのだ。低レベルの悪魔ですら、金を集める力で社会に大きな影響を与えられる。
今は、悪魔にとって住みやすい世の中なのだ。
次の日、俺はもう一度、悪魔召喚のための準備を始めた。
今度こそ、ヘマはしない……悪魔の力で、俺ものし上がってやる。
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