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すると、悪魔は苦しみ、もがき出したのだ……言っておくが、俺は喧嘩は大して強くないし、腕力も人並みだ。にもかかわらず、そんな俺に襟首を掴まれただけで、悪魔は苦しみ出したのだ。
これじゃあ、ただのメタボなオヤジじゃねえかよ……。
「うう、苦しい! 暴力反対! 助けて!」
俺の思いをよそに、苦しみもがいている悪魔。俺は手を離し、悪魔を睨んだ。
「おい悪魔、お前には何が出来るんだよ?」
「俺は……本当に何も出来ないんだ。ただ、ケチで金にうるさく非人情なだけなんだよ。それ以外は、普通の人間と同じようなことしか出来ないんだ」
その言葉を聞いた瞬間、俺は絶望のあまり崩れ落ちた。これまでの苦労は、いったい何だったのか。高校の三年間、必死でバイトして貯めた金を費やしたというのに……。
それなのに、召喚できたのはこんなオヤジだった。何の能力もない、ただのメタボなハゲオヤジ……同じ無能であったとしても、美少女の姿をした悪魔なら、まだ許せたが。
「ねえねえ、俺は何をすればいいの?」
最悪な気分の俺に向かい、とぼけた様子で聞いてくる悪魔。俺は顔を上げた。
「俺の前から、今すぐ消えろ」
「えっ?」
悪魔はきょとんとしていた。だが、俺はしゃがみこんだままだ。怒りのあまり暴れだすことも、悲しみのあまり泣き出すことも出来なかった。絶望が、俺のエネルギーを全て奪い去ってしまっていたのだ。
その代わりに、同じ言葉を繰り返した。
「頼むから、俺の前から消えてくれ」
「本当にいいの?」
とぼけた口調で聞いてくる悪魔。それに対し、俺は言い続けた。
「疲れた……もうイヤだ……頼むから消えてくれ。お前の顔は、二度と見たくない」
それから、五年後。
いろいろあったが、俺は何とか立ち直り、大学卒業後は無事に大手建設会社へと就職した。今は、仕事に追われる日々だ。
そんなある日のこと。
俺は仕事から帰り、テレビを点けた。そして、スーツとネクタイを脱ぎ捨てる。その時、妙な声が聞こえてきた。
「こちらがブラック商会の代表取締役、阿久 麻太郎さんです」
その声は、テレビから聞こえてきたのだ。ブラック商会? あく・またろう? ずいぶん変わった名前だな……などと思いながら、テレビの画面を見てみた。
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