蠱毒の王

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蠱毒の王

獣の牙と俊敏さ、竜の鱗と圧倒的な力。 その両方を持つ者こそ王者にふさわしい。 かつて、生まれながらに優れた力を持つ牙竜が、 自らが王であることを示すかのように咆哮を上げた。 しかし、獣も竜も自らとは異質な存在を認めることはなく、 獣からも竜からも孤立してしまった牙竜は、霊峰へと追いやられてしまった。 まどろみの中で牙竜は思う。何故、己は王になれなかったのだろう? あるいは、己が頭を垂れるにふさわしい王がいるのだろうか? 例え力があろうとも、獣でも竜でもない曖昧な存在は、 王たる資格はないのかもしれない。 微睡む瞳の前で、一筋の光が横切った。雷光虫…… そして、それを追って愚かにも我が領域まで慌ただしく入ってきた好物のガーグァ…… 腹が満たされ、また微睡んできたところに、先程の雷光虫がうっとおしい程に周りを飛び回っている。虫一匹相手にしたところで仕方あるまいと思い、眠りについた。 微かな羽音らしき音で、ふと意識が覚めた。 瞳を閉じているのに、やけに眩しい。 瞼を開けると、辺りには無数の雷光虫が飛び回っている。 ……ガーグァに喰われそうになっていた雷光虫が繁殖したか、あるいは仲間を引連れてきたのだろうか。 煩わしいことこの上ないが、やはり虫相手に癇癪を起すのも馬鹿馬鹿しい。 また眠るという気にもならないから、獲物を捕りに下山してみるか。
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