笑顔の理由

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 数日後、婆ちゃんが他界した。  婆ちゃんは誰にでも優しく、好かれていた為、多くの人が葬儀に参列して涙を流した。  でも俺は、涙が出てこない。  婆ちゃんの死を分かっていても、受け入れる事が出来なかった。  そして葬儀は終わり、久しぶりに実家で夜飯を食べた。  懐かしい味がする。母さんは婆ちゃんの味を受け継いだらしい。  お腹がいっぱいになり、縁側に座って夜空を見上げた。  都会では見る事の出来ない、吸い込まれる様な満天の星空。  何度も婆ちゃんと見た情景が、とても懐かしく感じる。 「洋一、一杯どうだ?」  振り向くと、酒瓶と巾着袋を持った父さんが立っていた。  横に座った父さんと、酒を初めて酌み交わす。  子供と一緒に酒を飲む事が夢だった父さんは、とても嬉しそうだ。 「婆ちゃん、最後まで優しい顔してたね」 「ああ、そうだな。……その婆ちゃんの遺品でな、洋一に渡したい物があるんだ」  父さんはそう言って、巾着袋の中身を渡してきた。  それは、おきあがりこぼしと黒縁メガネ。 「まだ綺麗だろ? おきあがりこぼしを、ずっと大事にしていたからな。お前に似ていて、とっても可愛いってね。婆ちゃんがまだ喋れる時にな……私が死んでも、これだけは一緒に焼かないでくれって言われたんだ。これは洋一だから……こんな婆ちゃんと一緒に焼いちゃいけないって」  おきあがりこぼしを手に取ると、大事にされていた事が分かる。 「だから、おきあがりこぼしと黒縁メガネは、お前が持って行け」 「おきあがりこぼしは分かるけど、黒縁メガネは受け取れないよ。婆ちゃんのトレードマークだろ? 俺には受け取る理由が無いし、父さんが持ってるべきだ」  そう言うと、父さんは黒縁メガネを持って懐かしそうに微笑んだ。 「父さんはな……洋一が小さい頃、たまに黒縁メガネをかけていた。覚えてないか?」 「えっ?」  父さんがメガネをかけている記憶は無い。
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