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魔王城、魔王の間――。
艱難辛苦(かんなんしんく)を乗り越えて、その扉の前に立った勇者一行。
「…開けるぞ」
仲間たちの同意を得ると、長きに渡る戦いの終止符を打つために、巨大な観音扉の片側を勇者は自身の手でゆっくりと押した。
少しづつ重い扉が開いてゆく……。
しかし、扉の隙間から一番はじめに中を垣間見た勇者の動きがぴたりと止まった。
そして数秒静止したあと、そっと開けかけていた扉を閉じてしまう。
「……どうしたのです…?」
「おいおい、ここまで来といてまさか怖気(おじけ)づいたのか?」
「それとも罠でも…?」
「魔王を見たんですよね? 中にいるんですよね?」
口々に言いたてる仲間たちに詰め寄られた勇者は、珍しく言葉を濁した。
「あー、あれって…魔王…、なのかな…?」
「……どういうことです?」
「…………なんか広間の中央に全裸の大男が仁王立ちで待ち構えてたんだけど」
「……………………………」
なんともいえない沈黙がその場に流れた。
「全裸って…え、丸裸ってこと? 上も下も一つも衣類を身に着けておらぬのか?」
――なぜか最初に食いついてきたのは、勇者一行の中で紅一点である姫騎士だ。
好奇心に目を輝かせて扉に手をかけようとした彼女を後ろから守護騎士が「なりません姫! 御身が穢れます!」とお堅い修道女みたいなことを厳めしい形相で口走りながら止めた。……まぁ毎度のことである。
「わたしが確かめましょう」
自ら名乗りをあげた神官が、固唾を飲んだ仲間たちに見守られながらおもむろに扉を開け、――おもむろに閉めた。そして、
「……なんだか戦う気が失せました…」
すっかり戦意を喪失した様子で、げっそりと顔を顰める。
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