2657人が本棚に入れています
本棚に追加
/194ページ
とある朝。
いつも通りに始まった平和な学園の片隅で、その事件は起きた。
事件があったのはF校舎の一年教室。
俺が登校すると、現場は荒らされることなく、……しかし、それを遠巻きに眺める生徒たちの関心を一身に集めていた。
事件の中心地は、あろうことか俺の机の上だった。
俺は非常に嫌な予感を抱きつつも、異様な雰囲気に包まれた教室の入り口から自分の席に近づく。
――どうか見間違いであって欲しいと、強く願いながら。
しかし、その願いは天に届かなかった。
いつだって俺の願いは無情に踏みにじられる。
机の上に、見覚えのある布地が数枚くたりと横たわっていた。
広げたハンカチよりも幾分布面積の小さなそれは、しかし、その何倍もの存在感を主張し、生徒たちの注目を浴びている。
手に取って確かめずとも、その布地が何かは明白だった。
……だから、みんな、俺の机から離れ、遠巻きにしているのだ。
誰だって近寄りたくなどないだろう。
俺だって現場が自分の席でなければ、確実に距離を取る側にまわる。
「………………………………」
俺はしばし対面したそれを睨み付け、再びどうか幻であって欲しいと願ったが、机の上に鎮座しているそれが煙のように消えることはなかった。残念ながら現物だ。
俺の机に放置されたブツは、――男物のパンツだった。
しかも、布地のよれ具合からして、新品ではなく明らかに使用済みの。
なぜそんなものが俺の机の上に堂々と置かれているのか。
ミステリーだ。
謎すぎる。
小さなメガネの名探偵が颯爽と登場してこの謎を解き明かしてくれたらきっと俺は泣いて感謝するだろう。
ついでに机上のパンツも処分してくれたなら救世主と崇(あが)め奉(たてまつ)るに違いない。
しかし、そんなに都合よく名探偵が現れてくれるはずもなく。
俺は自力でこの事件に挑まねばならなかった。
最初のコメントを投稿しよう!