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「……本当に巻いたのか?」
「やけに素直だな」
「魔王のくせに」
勇者がもう一度扉を開ける。
「……………………………もう俺帰っていいかな」
確認のため中を一目見た勇者は脱力した声で敵の大将を前にとうとう泣き言をこぼした。
……魔王は確かに勇者のマントを腰に巻いていた。
しかし前面は全開で。
もちろん魔王の息子は、マントとマントの合わせから元気いっぱいにコンニチハと顔をのぞかせていた。
結果。
――――視覚的に、より一層変態度が増しただけだった。
勇者の心遣いは完全なる不発に終わった。
「隠す場所がちげぇよ…!」
「俺、アレと戦える気がまったくしねぇ…」
「奇遇だな。俺もだ」
「たぶん、アレ魔王じゃないよ」
「そうだな。きっとここは魔〇王の城だったんだぜ」
「姫の前で卑猥な発言は避けてもらおうか。剣のサビにされたくないのなら」
「上手いこと言ったつもりでしょうが、品性を疑いますね。……お望みなら脳みそごと浄化してさしあげますよ」
「いやぁ神官殿は怒った顔もお美しい」
「そらぞらしい世辞はおやめなさい」
「ほんとほんと。なぁ勇者殿」
「……俺にふるなよ」
すっかり戦意喪失した勇者一行は、わいわい言い合いながら腰マントの魔王をその場に放置して魔王城を後にしたのだった。
勇者は、魔王討伐に失敗したため勇者失格の烙印を押され、あげく聖剣を没収されたが、本人はそれほど気に病むこともなくひっそりと野に下った。
――数年後。
古びたマントを手に魔王が勇者を訪ねて来るが、……それはまた別の話である。
END
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