春染

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――――――――――――― ――――――― 「おぉ、天気がいいですなー」 新品の傷一つ付いてない鞄を持ち、可愛らしいブレザーを着て、私は向陽と共に家を出た。 「はぁ…」 向陽は隣でため息をついている。 「えー、言ってたっけ?」 そう聞くと向陽はギロりと睨んでくる。 「兄貴が忠告してただろ」 覚えてないっす。 あらかさまに視線を逸らす私をみて、向陽はまたため息をついた。 「でも向陽は同じ高校じゃんかー」 「学年が違うだろ…」 何故そんなに怒るのか、わかるにはわかるけどさ。 「たかが学校だよ?普通に日常生活送ることくらい出来るでしょ」 私は口を尖らせながら、向陽を小突く。 「”鳳凰”の総長は今年2年生だが、幹部が一年に入ってくる。それと、留年してる奴もいるしな。関わったらどうなるか、わかってるよな」 おぉ…。そういうことね。 「女子いない訳じゃねぇけど、4分の3は男子だからな、気をつけろよ?」 はいはい…。心配性め…。 「わかりましたー。目立たないようにしますー」 とは言っても、別に何をする気でも無かったんだけど。 「…お前の外見そのものが目立つんだよ」 また一つ深いため息をつく向陽。 「ひでぇ兄貴だ!そんな派手にしてないやい!それに化粧だってそんなしてないよ?」 むっとして向陽を睨むと、向陽は呆れたように首を振って私を無視した。 …こ、こんにゃろ… ぐぬぬ、と下唇を軽く噛みながら、数歩前を歩く向陽にタックルした。 「いってぇ!なにすんだこら!」 ぷいっとそっぽを向くと、向陽は無言で睨んでくる。 「アクセサリーだってごついのはしてませんー」 「だーかーらー。…あ、そうだ。」 向陽は思い付いたように顔を上げると、鞄の中から眼鏡ケースを取り出した。 そのままケースを開けて中から眼鏡を出す。 黒縁の質素な眼鏡だ。 それを私に掛けた。 …待て、私の視力は健在なはずだ。 きょとんとしていると、さらに頭を強引に撫で、ぼさぼさにしてきた。 「な、なんっ、はぁ?!」 びっくりして声にならず、ただなされるがままになる。
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