春染

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────────────────── ─────────────── ──────────── 「たっだいまー」 「ただいま」 あれから駅に着いて外に出た頃には雨もやんでいた。 帰り道に向陽にアイスを買って貰って食べながら帰ってきた。 とりあえず部屋に行って鞄を置き、制服を脱いで部屋着に着替える。 そのまま階段を降りてリビングに向かおうとした時… 「……開いてる」 ふと、いつもは完全にしまってる部屋がほんの少しだけ開いてるのに気付いた。 ドクン… 心臓が、一鳴りする。 私はそれに気付かないようにして、パタン、とドアを締め、早足で階段をおりた。 「ひっなたー。夜ご飯なーにー?」 ドアを開け放つと、制服の袖を捲りあげ、台所につく向陽の姿。 「んー。リクエストは?」 「あっ、じゃあコロッケ食べたい」 かぼちゃコロッケ〜♪ 鼻歌交じりでテレビを付け、ソファに座る。 「あ。そういえばもう食材とかねぇから、買ってこい。」 あー、明日は私の当番かぁ 「うぬぬ…」 ググッと、伸びをして、よっとソファから立ち上がる。 台所に行って向陽の邪魔をしないように足りない食材を確認し、ダイニングテーブル横の棚の引き出しから使い古したお財布を取り出した。 中身をちらっと確認し、そのまま鞄にいれた。 「荷物持ち、大丈夫か?」 下準備をしている向陽が横目でこちらを見る。 「じょーぶよー。力持ちだから」 にっと笑って一旦自分の部屋に戻り、外出用の服に着替えた。 さすがにスウェットはやめとこっと パーカーに伊達メガネを掛け、髪をゆるく結んで鏡を見た。 「んー、いいかな。多分”ばれない”よね〜」 くるっと一回転して、鏡に布を被せ、部屋を出た。 「いってきまーす」 「おー」 そうしてだんだん日が落ち夕に染っていく外へ、飛び出していった。
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