春染

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1階に降りると、向陽はもう御飯を食べ始めていた。 「行ってくんの?」 ただそう聞いてきた向陽に頷く。 「ごめんけどラップしといて〜」 名残惜しく並べられた御飯を諦めて、今日買ったお菓子の袋を持って外に出た。 急ぎ、ということで家の車庫を空けて、2台並ぶバイクのうち、少し小柄な方に乗った。 りんご味の飴を口に放り込んで、夕闇がかかった外へ走り出した。 10分もしないうちに、目的地に着いた。 桜木公園という、かなり大きめの公園に辿り着くと、バイクを適当にとめ、中に入った。 既にここからも見える、大勢のカラフルな頭の人だかり。 来たばかりなのだが…どうにも視線を感じる。 バイクの音でかな。 見かけない顔、多分”龍虎”か”鳳凰”の下っ端さんたちから、物凄い視線が刺さる。 …なんだ、見世物じゃないぞ…。 なるべく気にしないようにしながら、自然とできた人の道を通って、奥へと進む。 その先では、見覚えのある顔と、今日見たばかりの顔。 少し、や、かなり驚いた。 いや、でもとりあえず 「”龍”」 見覚えのある顔、もとい兄、本名柊 陽飛(ハルト)に、通り名の方で声を掛ける。 ちなみに”龍虎”の総長を務めてる。 その隣には”虎”と呼ばれる副総長のやんちゃ顔の男がいた。 この人の事も私は知っている。 「あぁ、やっと来たのか」 陽飛は私をみとめると、ふっと笑った。 「どうせ携帯部屋に置きっぱなしだったんだろ」 「ぅおいぅおい、そういう話はここではいいだろ?」 身内話にならない内に素早く話を切って、とりあえず”月霞”副総長の佐雅 真尋(サガ マヒロ)、通り名”水月”のとなりにいった。 「あ、やっと来た。また寝てたの?”鏡花”」 真尋は呆れながら私の通り名を呼んだ。 「や、今日は携帯部屋に放置してた〜」 そういうと、また呆れる真尋。 だけどこんな私には慣れてるので、すぐに切り替える。 「”月華”をナンパしてたんだよ、”鳳凰”の下っ端が」 あぁ、それでこんなに大事に。。 ”月華”というのは、”月霞”の”姫”。 よくこういう暴走族やチームにはこういう存在がいたりする。 多くは総長や副総長の彼女だったりするが、うちはちょっと違う。 「”月華”は?」 周りを見渡しても、見当たらない。 「あちら側の幹部が助けてくれたみたい。 その後は”龍”がとりあえず収めてくれた。 俊がキレて乱闘になる所だったからな。 ”月華”は俊が家に送ってる。」 「あー、なるほど」 一応納得。 「ふーん?」 わざとらしく冷めた目を、離れたところにいる”鳳凰”に向ける。 今日見たばかりの顔、あの教室にいた…。 慶斗や番犬くんまでいる。 「…お前が”月霞”リーダーか?」 ”鳳凰”の総長と思われる、またもや今日見かけた顔。 深い青のさらさらの髪。 その瞳は冷たく、何を考えてるのかがいまいちわからない。 綺麗に整った顔には変化はなく、無表情だ。 「ん。どうもお初でーす。 ”月霞”総長、”鏡花”って呼ばれてるもんです〜」 ふっと、表情を崩し、笑顔を浮かべる。 そんな私の様子に周りは驚いたようだった。
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