春染

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「…なんか、だめだ。これでもまだ…」 ぶつぶつと呟く向陽。 何を思ったのかその場に私を立たせ、ぼさぼさ頭を少しだけ手で梳かすと、三つ編みを始めた。 な、なんなんだ。 大人しくしていると、終わったようで、向陽は少し離れて、私の姿全体を見た。 「…まぁ、とりあえずはいいか…」 「…何がいいんだハゲ」 げんなりしながら向陽を睨むと、向陽は満足そうに笑う。 「絶対外すなよ」 脅しのようにニコニコと笑っている。 殴ろうと思ったが、何かの策なんだ、と自分に言い聞かせ、我慢した。 「あっ、スカートもっと降ろせよ。 膝くらいまで」 …な、なぜ? 上げすぎてはないと思うんだけど… とりあえず、下げた。 下着が見えそうなくらいまでにスカートをぐっと上げるのを嫌いな私は、中学の時からスカートは校則を破った平均より下を保ってきた。 その更に下を要求してくるとは…。 まぁ、この方がいいや。 考えるのが面倒くさくなって、とりあえず下げた。 高校までの道が全くわからないため、向陽に道案内してもらいがてら、登校した。 「ん、兄貴からメール」 人混みの電車の中でスマホを開いた向陽。 「お、なんだって?」 「陽彩、変な事すんなよ、だってよ」 向陽は笑いながら画面をちらっと見せて来た。 「何もしないってば…」 私は苦笑いすると、ため息をついた。 電車が速度を落とす。 向陽は人混みを掻き分け、私を連れて出口付近へ行った。 電車を降り、駅を出る。 周りに向陽と同じ制服の人が結構いた。 「…陽彩、お前方向音痴なんだからはぐれんなよ」 「はいはーい」 欠伸をしながら、向陽の背中を追いかけた。
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