春染

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遠くから、バイクの音がする。 だんだん近付いてきて、やがて止まった。 周りが静かになった。 「おっ、お出ましか?」 からかうような口調の”虎”。 心臓が、なった。 下っ端中心にざわめきが広がる。 そしてバラバラに立っていた奴らがさも自然に、 道を開ける。 現れたのは、小柄なフードを被った男だった。 そこまで目深には被っておらず、隙間から柔らかな赤みのかかった髪が見えている。 うわ…── 思わず息を飲んだ。 ”龍虎”も”鳳凰”も、”月霞”も。 美形揃いと謳われ、異性問わず騒がれることは珍しくない。 が、”鏡花”は、また違った。 あどけない、幼さの残る顔立ちには、反して艶めかしさが漂う。 少し中性的な、けれど男女とも魅了するような魅力があった。 怖いくらいに顔が整い過ぎてる…。 これは、納得だ。 彪牙が、いとも簡単に懐くわけが。 あんなに騒がれるわけが。 ”鏡花”は”龍”に近寄り、事情を聞いて”水月”と合流した。 蒼凰はじっと、”鏡花”を見つめ、彪牙はきらきらとした目で”鏡花”の動作を目で追いかける。 花、とつくだけあって、同性からも好かれるのも納得だ。 男なのに、目を惹きつける。 こうして俺は、この日初めて”鏡花”を知った。
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