春染

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────────────────── ────────────── 「っと。ただいまぁ」 「ただいま」 「おー、こんな時間に珍しいね」 とあるお店に真尋と一緒に入りながら元気よく挨拶すると、カウンターでグラスを拭いていた若い男性が柔らかな笑顔で迎えてくれた。 この人は天藤 隼人(テンドウ ハヤト)さん。 このお店のオーナーで、奥の部屋を”月霞”に貸してくれている。 「ますたー、美味しいオムライスお願いしまーす!」 大声でマスターに注文し、奥の部屋に入った。 ドンッ 部屋に入ると、重い衝撃が体に走った。 それとともにふわっと、落ち着く匂いが広がる。 「俊」 ぎゅうっと抱き締められている。 くせっ毛のふわふわの髪に触れ、名前を呼ぶと俊はいっそう力を込めた。 「なんで最近来なかったんだよ」 むくれたような声をだし、俊は顔を上げた。 「おー?寂しかったのか?」 ふっと笑って髪をわしゃわしゃと半ば強引に撫でる。 「当たり前だろ」 俊はぷいっとすると、私から離れていつもいる定位置のソファへと収まった。 改めて、ここが”月霞”のたまり場だ。 ここのお店の名前は、«Luna» フランス語で、月。 昼間は普通にカフェみたいな雰囲気だが、夜にはバーにも変わる。 「お、”鏡花”。おかえりー」 俊の隣にいたのは、加熊 央希(カグマ アキ)。 俊と同じく”月霞”の幹部。 ”月霞”には、リーダー、副リーダー、幹部4人の姫が1人いて、そしてその他20人から構成されている本当に少数のチームだ。 全国Top.5に入るほど、普通なら人数も増えるものだが、”月霞”は異例だった。 その分結託力が強く、動きやすいっていうのもあるけれど。 この場にいるのは俊と央希、そしてもう1人幹部の名護屋 萩三(ナゴヤ シュウゾウ)。 基本的寡黙でクール。 普段は寝てるか、パソコンを弄っている。 「しゅーぞーちゃん、お久しぶり」 前回来た時は萩三はずーっと寝てたから実質1週間以上ぶりだ。 ここへはいつも週4~5のペースで来てたのだが、入学準備なので忙しく、最近は来れてなかった。 「…ん」 萩三は一瞬だけこっちを向いて、あとはパソコンに視線を戻し、またカタカタとし始める。 相変わらずクールだなぁ 「んでんでぇ。先に俊から聞いたと思うけど、」 自分もソファに座って、早速今日のことを話し始めた。 真尋もその隣に腰かける。 「────というわけで、事実上休戦になりましたのでー。まぁでもそんなに前と変わらないと思うけどねぇ」 俊はあからさまに不機嫌そうにふいっとクッションを手繰り寄せ、寝始めた。 萩三は興味無さそうに作業を続ける。 央希は目をぱちくりさせた。 「へぇ、”鳳凰”からきたんだ」 「んー、そうなんだよねぇ。 でも、普段からそんなに争ってるワケじゃないからそんなにそんなにだけどねー」 飴を砕きながら伸びをして、央希の言葉に答える。 「まーでも、この場でしっかり明記してきたって事は…」 真尋が頬杖をつきながらこちらをちらっと見る。 私は頷いて、微笑んだ。 「そうだねぇ。きっとあっちの方で”いざこざ”があるんだね」
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