春染

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そこまで話したところで、コンコンとノックが響いた。 「あっ、ますたーかな?」 嬉嬉としてドアを開くと、湯気の漂う出来たてのオムライスと、ボトルとグラスを持った隼人さんが現れた。 「お待たせー。ヨウの好物だよ」 そう言って、私の目の前にオムライスを置き、テーブルの真ん中にボトルとグラスを置いた。 隼人さんは私のことをヨウと呼ぶ。 陽彩の陽を、訓読みしたものだ。 隼人さんは私の正体を知っているため、他の人が聞いた時にどちらの身バレもしないように、とのあだ名だった。 もちろん”月霞”のみんなも私のことは知っているが、ほとんどはみんな”鏡花”か、”キョウ”と呼ぶ。 「今日はガーリックバターライスだよ」 隼人さんはニコッと笑って、最後にスプーンを添えてくれた。 「ありがとうマスター!マスターのこの手料理を食べる為に今日俺頑張ったんだよぉ」 はしゃいで、早速スプーンを手に取り、いただきますをした。 「はい、どうぞ。またなんかあったら呼んでね」 隼人さんは優しく微笑むと、そのまま店に戻っていった。 ちなみに、この格好…”鏡花”でいる時は、私人称は”俺”にしている。 その方が万が一の時にも対応しやすい。 ほかほかと、まだ湯気立つオムライスにスプーンを差し入れる。 隙間から一気に白く湯気が舞い上がり、私好みの半熟の卵がぷるっとゆれる。 そのまま口に放り込むと、感動した。 「はわぁぁ…美味しい…」 向陽の料理も好きだけど、隼人さんのはもう別格だなぁ… もぐもぐと噛み締め、味わいながら食べると、自然と頬も緩む。 「この表情見れるのも俺らの特権だよね」 ふと、ぼそっと真尋が隣で呟く。 ん?とそちらを見ると、ううん、と微笑むだけで濁らされた。 「キョウは相変わらず美味そうに食べるなー」 「実際マスターの料理は美味しいしね」 「俺も腹減ってきた…」 俊と真尋と央希の会話を背に、私は夢中でオムライスを食べた。
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