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「ねぇおじいちゃま、それ、なぁに?」
「それ、なぁに?」
からりと晴れた日。
理子と真子が庭で遊んでいると、祖父が仏間で何やら作業をしていた。
口に懐紙を咥え、清らかに光る短い刀に白い丸いものをポンポンと叩いている。
一度は理子と真子に目を細めて微笑んだが、祖父はすぐ作業に専念した。
庭の明るい場所から見る祖父のそれは、どこか儀式めいた神妙さがある。
理子と真子は祖父の動きから目が離せなくなり、結局祖父が二口の短刀を鞘に収めるまで見入ってしまった。
「これはな、お前達を守ってくれる懐刀なんだよ」
おいで、と手招きをされ、理子と真子は祖父の側に行くと、祖父は話しはじめた。
「昔のお姫様はみぃんな、この懐刀を御守りとして持っていたんだ。悪者から守りますように、と、念を掛けていたんだよ」
双子の理子と真子は、2人揃って同じ角度で首をかしげた。
「私たち、お姫様じゃないよ?」
愛らしいその仕草に祖父が2人の頭を撫でると、曇りなき清らかな4つの瞳はまっすぐに祖父を見つめる。
「私達家族には、理子と真子は大事なお姫様だよ」
出し惜しみのない祖父の愛情に、2人は嬉しそうに頬を染めくすくすと笑った。
「おじいちゃま、とっても綺麗ね」
菱菊模様に織り込まれた上質な綸子(りんず)の上に置かれた二口の短刀の鞘には、それぞれくちなしの花と、葡萄の蔦が蒔絵によって施されている。
「お前達はどちらがいい?」
「私はこれ!」
「私はこっち!」
「うまい具合に好みが分かれたな」
すぐに手渡されると思い期待に満ちた顔で待っていた2人だが、祖父はあっけなくそれを桐箪笥にしまった。
「お前達がそれぞれ選んだ懐刀は、嫁入りに行く時に持たせてやるからな」
「それまでは、触っちゃだめ?」
「見るのも、だめ?」
「刀というものは、守りもするが、使い方を間違えれば傷付けもする。まだお前達には危ない代物だ。じいちゃんが手入れをする時に、また見せてやる」
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