小面の客

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大きな手のひらに頭を撫でられ、幼い2人は祖父の言葉に素直に「はぁい」と返事をした。 今まで祖父が理子と真子に理不尽な事をした事は一度もない。 だから今回も、祖父の言うことは疑わなかった。 祖父が管理してくれるが、あれは理子と真子の物。 2人がお嫁に行く時に、持って行く物。 それを、理子と真子はずっと信じた。 祖父が鬼籍に入った後も、2人の懐刀は父が管理して、ずっと仏間の桐箪笥に納められていた。 どちらかが嫁入りをするまで、刀はずっとそこにあると。 ーーーーそう、思っていたのに。 高2になった真子が身に纏っているのは花嫁の白無垢ではなく、同じ白でも死装束。 祝いの餞(はなむけ)の為の懐刀が、死出の弔いに使われている。 泣き疲れて呆然とする母と、遣る瀬無い思いに震える父。 そんな両親の背中と仏間に寝かされている真子の遺体を、理子はぼんやりと焦点の合わない目で眺めていた。
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