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「……真子? 何してるの?
なんで泣いてるの?」
本能的に理子は真子を抱きしめると、真子も同じ様に理子にすがりついた。
「理子……理子。もう、もう私、いやなの。
もういや……疲れた……」
最後は小さな悲鳴のようになったその声は、初めて聞く真子の弱さだった。
「……誰かに、虐められてるの……?」
ビクッと一瞬強張った肩は、すぐに泣き震えた。
「誰なの!? 真子のクラスの人? いつからなの!?」
今まで気付けなかった自分にも、隠し続けた真子にも苛立ちを感じ、理子は真子の肩を激しく揺らし詰問した。
どうして、どうして?
両手をきつく胸の前で握りしめて何も答えずに泣きじゃくる真子を部屋に残して理子は部屋を飛び出した。
2人の部屋に戻り、真子の学校の鞄の中身を引っ張り出すと、破れたノートや教科書の残骸が枯れ葉のようにハラハラと落ちる。
「……なに……これ……」
その中で、破れていないピンクの便箋が妙に目立った。手に取ると、丸みを帯びた筆跡で何度も「死ね」と書き綴られている。
「いやぁっ!!」
可愛らしい便箋とは余りにもちぐはぐな呪いの言葉は、真子の文字ではない。
足元から這い上がる怒りと想像以上のショックからの寒気に、理子は自分の体を抱きしめてうずくまった。
これを真子は誰にも知られずに、1人で抱えていたのだ。涙すら笑顔で隠して。
「……痛っ」
急に、左腕にチリリと痛みを感じた。まるで熱い鉄の串を押し付けられたような痛み。慌てて理子が腕をまくると、左腕の内側に何本も赤いミミズ腫れが浮き上がってきている。
「…………真子?」
ざわざわと胸騒ぎがする。
泣き声が聞こえない。
目の前にチカチカと光が飛び、平衡感覚が危うい。
理子は真子を探した。
おぼつかない足元、指先がどんどん冷えていく。
呼吸も浅くなる。
仏間の襖は開いたまま。
いつもは閉まっているのに、家の奥の浴室のドアが開いていた。
激しく鳴り響くのは心臓の音。
理子は自分の体の異常が真子のものだと確信していた。
体の痛みも、霞む目も、引きちぎられそうな心も。
やっと浴室に着いた時見つけたのは、左腕を何度も斬りつけて生き絶えた真子の姿だった。
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