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「おまえが食べられるって言ってたケーキの種類、思い出せなくて。二種類買ってきたんだ。おまえが食えない方は、俺が食べるから」
俺がいつも食べるのは、黄色い栗のモンブラン。箱のなかにあったのは真っ赤な苺の乗ったショートケーキと艶やかなチョコレートケーキだった。大ハズレだ。
それどころか、箱の内部にはクリームが色んなところにくっついていて、ケーキ本体はなんとか形を保っているという状態だった。これを持って走ったんだ。そういえば、さっき地面に放り投げてもいた。
続いて箱を覗き込んだあいつはその惨状に驚いて頭を垂れる。
中身なんて、どうでもいい。甘いものが苦手なのに、俺のために買ってきてくれたことが嬉しかった。ケーキを持っていることも忘れて、俺を探して走ってくれたことが嬉しかった。しょげる姿が、とても愛おしかった。
指でクリームを掬って、口に含む。熱に溶かされて甘くほどける。
もう一度指で掬ったケーキを差し出す。あいつがそれを舐め取って、二人で顔を合わせて笑い合った。
「甘いものも、たまには悪くないな」
初めて食べた気がするケーキの味は、今まで食べた何よりも美味しく感じた。
食わず嫌いは、するものじゃない。
END
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