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「疲れた……もう嫌や……」
ジムは頭を抱えた。時刻は既に深夜の三時を回った頃だった。彼はこの所、毎日そうやっている。部屋の隅に座り通しだ。ただ、一人暮らしの彼がずっとそうやっていようと、部屋は整然としていた。
「かあー腹減ったで」
彼がそう呟くが先か、急に窓へ突風が吹き付ける。そしてバタリと開いた窓から、ハンバーガーが舞い込んできた。
「おお、チーズバーガーか。丁度そんな気分やったんや」
ジムはハンバーガーを見ると、慣れた様子であんぐり口を開く。すると、ハンバーガーはぴったりジムの口の中へ収まった。
「んまっ、徹夜の日はハンバーガーに限るで」
ジムは腫れた目を擦りながら、ハンバーガーを咀嚼する。その内いくらかを呑み込むと、ジムはハンバーガーを床へと吐き捨てた。そして、何事もなかったように、作業へと戻った。
「あぁ、クソ! だから何でや!」
ジムの足元で、噛み解されたハンバーガーはひとりでに這いずり始める。唾液で少し溶けたハンバーガーの跡は残らない。まるで坂でも転がってるかのように、部屋の隅にあるゴミ箱を一直線に目指していく。そして食べ残しにしては律儀にゴミ箱の蓋を開け、そのままするりと中へと落ち着いた。
以上のハンバーガーの挙動は、世界方程式というプログラムによって制御されている。
世界方程式とは、世界の事象を全て網羅した方程式を数アト秒で演算し、物理現象を人類の有利な方向へ導くシステムの総称である。
例えば、予め人間の空腹感を予測しハンバーガーを空気から生成、それを投射し、目標の口内へと送る。このようなハンバーガーの運動制御も、大昔は未知だった暗黒エネルギーを定常的に供給すれば、簡単な事である。
さらに特筆すべきは、放っておいても綺麗になるという、熱力学第二法則に背く挙動だろう。食べ残し達はもう、ゴミ箱に自ら入るのが当たり前だ。勿論、元々そうであったわけではない。目的のゴミ箱に入っている状態のエネルギー準位を下げ、他の所でエントロピー増大を確保しているという仕組みだ。
なんていう仕組みを理解する事もなく、ジムは何かとにらめっこしてきた。
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