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彼の部屋に物はほとんど皆無だ。自動分解機構を有したゴミ箱くらいで、あとは何もない。ではジムが何と格闘しているかというと、それは実体がないのだ。
脳内ディスプレイ。幾世紀も前に作られた技術であり、以降その利便性からこの形態が採用されている。
世界方程式から電磁波を飛ばし、人間の感覚を刺激。これにより、人間は一切の物質を介することなく情報を得る事が出来る。
ジムの視界には、ここの所ずっと同一直線上に三つの長方形が並んでいた。
ジムが脳から信号を飛ばせば、狙った長方形に言葉が投げ込まれる。
入れる言葉は変わらず、「ジム」「結婚相手」そして三つ目の長方形を空白。
「頼むで……」
ジムが行っているこの操作は、世界方程式の基本的な機能を使用している。今なら、ジムを構成する、結婚相手という関数を出力する事が出来るのだ。
つまりは結婚相手検索である。
他にも、言葉や空白にする場所を変える事で、あらゆる事象を調べる事が可能、なはずだった。
だがジムの場合、出力されるのはいつも「解なし」の無慈悲な文字。
初めは関数の長方形に、「気立てが良く料理も得意、もちろん超美人で、だけどちょっとエッチな結婚相手」と入れていたが、今では条件なしでもこの有様だ。
「何かがおかしいで」
その結果に、ジムは整った顔を歪ませる。
何故なら彼はとてもモテるからだ。これは彼の主観や願望ではなく、絶対的な結果だ。
以前、ジムは「今、女にモテる男ランキング」「1位」と入力した事があった。そこでの出力結果が「ジム」だったのである。
つまり、ジムは世界が認めるイケメンであり、結婚相手がいない筈はないのだ。ましては彼をイケメンと認めたのが当の世界方程式である。
「もしかすると、ワイは結婚に向いとらんのちゃうやろか」
モテる、というのと結婚相手になるかならないか、というのはまた別の話だ。ジムは、自分の生い立ちが、特別だったのを思い出す。
幼い頃に両親は死んだらしく、物心がついた頃には口に勝手に物が、ゴロゴロしてるだけで運動と洗体が、最低限の教育も電波でそのまま脳へ書き込まれた。何不自由ない生活。
コミュニケーションも、脳内ディスプレイを使ってしてきた。同世代の異性とはした事がなかったが、楽しく会話をする事も出来る。
では何故、結婚相手がいないのだ。
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