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ジムは考える。そこで、一つの解に至った。目を閉じ、世界方程式へ言葉を打ち込む。まず、「ジム」と「両親」と打ち込み、両親の名前を出力。そして今度は、両親の名前をそれぞれ初めと最後の長方形へ放り込む。
こうすれば、二人を結ぶ関数が分かるという訳だ。
「ほうれ、どうすればワイは運命の相手に会えるんや」
結果はすぐに出力された。二つ目の長方形いっぱいに文字が侵食していく。
横長だったそれはみるみる縦に伸びていき、単語とは言い難い文章となって現れた。ジムは初めての光景に閉口していたが、すぐにその長方形の左上を拡大した。
「なになに? ジェイクは2016年アメリカのオハイオ州――って、こんな所から始まんのかい!」
それはジェイクとミリアが出会うまでの人生、とでもいうべき大巨編であった。何ギガバイト、いやもっとあるかもしれない。しかし、自分の両親の半生とは気になるではないか。ジムは長方形内のテキストを、脳へ直接的書き込むのも忘れて読み耽った。
「ワイは……なんていう壮絶な物語の末に産まれたんや」
ジェイクとミリアは海を越えた場所で生まれた。ジェイクはアメリカ、ミリアはヨーロッパ生まれだったらしい。それぞれ愛ある家庭に生まれ、甘酸っぱい思い出や苦い挫折を経験しながら大人になった。
そして、二人とも優秀な科学者となり、ジェイクは遺伝子工学を、ミリアは素粒子物理学を専攻した。
二人とも人類史に残る発見をし、それでも尚研究をし続け、そして死んだ。そのドラマたるや、ジムが何度唸り、何度涙した事か。
「いや、待て待て。二人とも出会ったとらんやないかい」
ジムは空虚を殴った。その長方形に二人での物語はなく、二人それぞれの話が叙述されていただけなのだ。
「じゃあなんで、ワイは生まれてん」
ジムは暫くふてくされた。
両親がいなかった中でもたくましく生きてこれたのは、母親がお腹を痛めて産んでくれたり、笑い合いながら両親が自分の誕生を心待ちにしていたのだろうという、希望があったからだ。
しかし今ではそれすら危うい。
ジムは挫けかけていた心を持ち直し、世界方程式に向き合った。
「じゃあこれなら、どうやねん」
ジムは世界方程式に自身の様子を生まれた時から今まで出力させた。
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