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夏が近付きからりと晴れた空に、七人の悲痛な叫びが響き渡る。
「お姉ちゃあああーーん!! ああーー!!」
今年中学に上がったばかりの少女が、長い髪を振り乱して叫ぶ。
姉の体は氷の様に冷たく、その瞼は、堅く閉じられている。
まるで、もう二度と開きたくないという様に、堅く、強く。
「っちくしょう! 何でだよ!!」
もう成人と思われる女性は、小麦色の肌に赤い薔薇のタトゥーを入れ、ホワイトブロンドの巻き毛をがしがしと掻いた。
「おねえぢゃあああああ!!」
小学生の弟は、今度面白い本を教えてあげると言った姉を、必死に呼んだ。
残された者達は、それぞれに嘆き、また、声も無く叫び、咽び泣いた。
しかし、空をも割ろうかと言う叫びは、横たわる少女には聴こえない。
自殺だった。
睡眠導入剤を大量に飲み、手首を深く切っていた。
徐々に、ゆるゆると、死んでいった。
たった、独りで。
寂しがりなあの子が、心細く無かった筈がない。
母親は、血が滲むほど強く唇を噛んだ。
どんな思いで、あなたは独り逝ったの……?
家族が彼女の死に気付いたのは、彼女が息絶えてから、十時間が経った頃だった。
いつもは早起きな彼女が、いつまで経っても起きて来ないのを不審に思い、ドアを開けると、そこには……。
今日は五月十七日。
彼女の、十六回目の誕生日だった。
そんな日に、彼女は独り、命を絶った。
「!……あら?」
「どうした?」
「……何でも、……ない……」
胸が張り裂けるような痛みに打ち震え、愛する娘を見た時、その口元が、ふっと、微笑んだような気がしたのだ。
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