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はっ はっ はっ。
何かの呼吸音が真後ろから聞こえた。
気のせいかもと思ったか、確かに聞こえるし、その呼吸音が後ろから追いかけてくる。
一緒に走っている相手の呼吸だろうか。でも、そっちの怒鳴り声が響いている時も呼吸音は聞こえるから、二つは違う存在が発しているようだ。
もう一人誰かいる。いや、『一人』ではなく『一匹』かもしれない。
何かが俺達を追ってきている。しかも、振り向いて正体を確かめることもできないくらい、それは危険なモノらしい。
追いつかれたらどうなるのか。その先を考えることができず、俺はひたすら走り続けたのだが、元々足は遅いし、結構長いこと走っていたため、体力が尽きてきて進みがあからさまに悪くなった。
このままでは追いつかれる。そうしたら…どうなってしまうのだろう。
逃げなければ。でも、もう足が動かない。昔のかけっこの時のように、気持ちだけが前に進んで、肝心の足は置いてけぼりだ。
もうダメだ、走れない。後ろの何かに追いつかれたらどうなるのか判らないけれど、本当に無理なんだ。
どんなに気持ちが走ろうと思っても、足がそれに追いつかず、ついに俺は走ることを諦めた。
俺は死ぬのだろうか。あるいは怪我くらいですむだろうか。披露がつよ好きで、それすらもまともに考えられなくなった俺の横を、何か、風のようなものが駆け抜けた。続いてもう一つ、似たような速さで何かが通りすぎていく。
「畜生! 諦めやがって! これだから、走るのが苦手な奴は嫌なんだ!」
姿は見えない。ただ声だけが響き渡る。その後ろを、こちらは変わることのない呼吸音が追いかけて行った。
…今のは何だったのだろう。
捨て台詞から察するに、足に地震があって、もしいまだに走り続けていたら、その果てに俺はとんでもないことになっていたのだろうか。
何に追われていたのか。どうして走らされていたのか。そういうことは何一つ判らないけれど、一つだけ判っていることがある。
足が遅いから走ることに関しては、早々と限界を覚り、諦めてしまう。どうやらそのおかげで俺は助かったらしい。
足の速さなんて、オリンピック級でもなければ社会に出てからは重要じゃない。改めてそう思った。
走れ! …完
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