走れ!

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走れ!

 子供の頃から足が遅くて、かけっこはいつもビリ。鬼ごっこをすれば必ず一番最初に捕まえられた。  小学生くらいまではそれが悔しくてたまらなかったけれど、中学に上がった辺りから、陸上部のエース級でもない限りは、足の速さより、勉強など、他に何かに秀でている方が特になることが多いと気づき、自分の鈍足が気にならなくなった。  それでも高校までは、体育祭があったりして、足が速ければと思うことがあったけれど、大学に上がるとそんな考えは必要なくなり、社会に出た今は、足の速い遅いなどどうでもいいことになった。  通勤はマイカー利用だし、仕事の時だけでなく、時間にはいつも余裕を持って行動しているので、走らなければいけない状況になど遭遇しない。  大人になると子供の頃の悩みが、『どうしてあんなことで?』と感じられるようになると聞いたことがあるけれど、本当にそうだと思う。  足なんて遅くても、人間、何も困らず生活していける。そう信じて日々を送っていた。  そんなある日。  休日の午後、ちょっと小腹が空いて、俺は近くのコンビニに向かった。  店内のイートインでジャンクフードを食べ、店を出る。  寒くも暑くもない時期で、胃袋も満たされており、いい腹ごなしの散歩だと歩いていたら、ふいに後ろから、大声を上げながら誰かが走ってきた。 「振り向くな! 走れ!」  怒鳴りつけられ、反射で命令に従い走り出す。  いったい何事だ?! どうして走らなきゃならないんだ?  疑問に思いながらもひたすらに両足を動かす。その途中で何度も後ろを振り返ろうとしたが、その度、斜め後ろ辺りにいる誰かに『振り向くな』と怒鳴られた。  一般人を巻き込んだ、テレビのドッキリ番組だろうか。もしそうなら、そんなものに出演などしたくないから、今すぐ走るのをやめたいし、状況確認もしたい。  その考えを後ろの人に話そうとするのだが、何故か、喋り出そうとするタイミングで『無心で走れ』と叫ばれる。  本当に、いったい何なんだ? 後ろに何かいて、そいつが追いかけてきているとでもいうのか。  そんな考えがよぎった瞬間だった。
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