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「信じ難かったが、子ども達の誰かが殺したのだと。わかってしまった」
足跡が二人分、どちらも小さかったのだ。脳みそが掻き混ぜられる感覚を生まれて初めて味わった。
「それで埋め直しちゃったんだね。死人が出たって事実を思わず隠して……」
黒い少女がそう言いかけたが、時任は静かに首を横に振った。
「違う。私はあんなことをしてしまった子どもを見つけて説得し、自分の意思で警察に名乗り出てほしかったんだ」
本音で、あった。何があったのか、詳しくはわからないが。それでも理由があるはずだ。
ただ警察に捕まえられるのではなく、自分が正しい道を示してやりたかった。自分が子ども達に耐える力を貰ったのと同じように。
「……そっか」
死神は申し訳ないような顔をして、複雑な表情で頷いた。
「この時代、道に迷った子が多すぎるんだ。誰かが導いてやらねば」
時任はそう呟くと、ため息を漏らした。しかし結局、自分は最後まで子どもを救うことができなかった。
「私は何もできなかった」
激しい後悔が押し寄せて、脱力感が身体を襲う。
そこへ、
「そんなことないよ」
死神の少女が声をかけた。
「あなたの思いはいろんな人に届いてるんじゃないかな。私たちはこれ以上関われないけど、他にもその導いてくれる人はいるはずだよ」
信じてあげて、と。彼女は切なそうに笑った。
そして、右手をあげた。
「死刑を、執行します。あなたには抵抗する権利があります。それが地獄での扱いに影響する可能性も、あります」
キンッ、と。白い右手の先には、さっきも見た奇怪な鎌の刃。
「いい?」
首筋に鋭い刃が当て、彼女は問う。時任は、ただ頷いた。
この施設には色々な人がいる。この場所を守る他の仲間も信頼できる、子ども達もしっかりと成長できているはずだ。
天気を調べる方法など、自分が教えなくても学ぶのは容易いはずだ。
事故か、喧嘩か。真相は自分にはわからないままだが、必ず解決に導かれるはずだ。
間違いを犯した子どもも、必ずや正しく歩めるはずだ。
信じなければ。
「ああ。ありがとう」
ただ一言を残し、時任達夫は現世を去った。
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