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深、と静まり返った室内。薄暗い空気が漂っている。
「……キルコ、おつかれ」
それは少し触れればすぐに壊れてしまいそうな脆さであったが、しかし壮介は言葉を発せずにはいられなかった。
「うん」
あまりに重く、あまりにやるせない案件であった。昼間のうちに今回の仕事の内容はキルコから聞いてはいたが、いざ執行その場に立ち会ってみると無駄な口出しをしないで我慢することがとても難しかった。
窓の外から虫の鳴き声が幾重にも連なって流れ、壮介の肌にはねっとりと生暖かい空気が絡まった。
「壮介。私たちはもう――――」
キルコが顔を上げ、ふと思い出したかのように言いかけたが。
「ああ、わかってる。俺たちはもう関わっちゃいけないんだろ。……わかってる」
彼女が何を言いたいのか、壮介にはわかりきっていた。
施設の裏庭に埋まった子どもの死体を発見することは許されないし、誰かに伝えることなど論外。犯人を見つけることもできず、恐らく犯人である子どもを正しい道へ導くことも、壮介たちには禁則なのだ。
壮介にはわかっていた。キルコが言ったように、時任達夫の思いが通じた”導く人”がそう都合よく現れるわけがない、と。世の中はそんなに甘くない、と。
しかし。その都合のいい出来事が、起こり得るのもこの世の中なのだ。それを信じずには希望は生まれない。そう信じられるからまた一歩を踏み出せる、と。壮介はそう考えるようになってきていた。
それよりも気になったのは、
「……こういうのは結構あることなのか?」
死神の仕事の”特殊な事例”。現世の軽い罪で執行対象となってしまった者についてである。
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