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キルコはきゅっと口を結び、何故か少し申し訳なさそうな顔をして。こくりと頷いた。
「うん……。私が担当したのは、今回のを入れてまだ二回目だけどね」
特例措置。今日の昼間に、新しく覚えた地獄法の一つ。壮介はそれを聞き、やるせなさを感じながらも、しょうがないと思わざるを得なかった。
被害が出てからでは、たしかに遅いのだから。
『感染症にかかった人を隔離するのと同じこと』と説明したキルコの表情が忘れられない。
しかし、それでも執行対象者の”現世での人格”への待遇は、昔に比べたら随分を良くなっているようで。
今この瞬間も、
「五年前も今ぐらいの法が整備されてたら、リドはあんなことになってないのかも」
キルコは思わずといった感じで声を漏らしていた。
リド、リドルセン・キャスケット。三週間ほど前、仙幻峡でキルコ達を襲撃した男の名前である。キルコの同級であることは、既に彼女から聞いている。そしてその過去も。
「……今は関係なかったね」
キルコは自分が呟いた言葉に気づき、壮介に向かって神妙に微笑んで言った。これに関して、壮介からは強く触れるべきではないのだろう。
重苦しい空気に抑えられて床を見ると、俯けに倒れた時任の遺体が目に入った。
印象的な、彼の言葉が壮介の頭をぐるぐると回った。
『道に迷った子が多すぎる』
いくつかの顔を壮介は思い浮かべ、奥歯を少し強く噛んだ。
たしかに、多い。
そう確信したうえで、壮介は不安にも駆られていた。自分は大丈夫だろうか。道に迷ってはいないだろうか。
この数週間で、壮介の人生は大きく変わった。世界が変わった。道も、変わっている。
迷わずに歩めているだろうか。
ふと顔を上げた先でキルコと目が合い、地獄というものを少し考えた。……何故か少し無力感を覚えた。
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