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「いやいやいやそんなの申し訳ないよ。私はあの部屋気に入ってるし。壮介は私と二人きりであんな狭いとこに住むのが嫌だって言うの? 失礼な! 失礼だよ!」
「え、い、いや、冗談だって。そんな怒るなよ」
まくし立てるキルコに、壮介はたじろぎながらどうどうと。両手の平を宥める形で彼女に向けた。
まさかこんなに激しい反応を見せるとは思わなかった。
「たしか死神として活動し始めてからずっとあそこに住んでるんだっけか。そりゃ思い入れあるよな。軽はずみで変なこと言って悪いな」
いつだったかキルコが言っていたことを思いだしながら、壮介は謝罪の意を示した。すると今度は、
「へっ? いや、そういうわけじゃ……」
「ん?」
何故かキルコがたじろぐような反応を見せたが、そこに深くつっこむことはできなかった。何故か。
「よう来たのう。それ、入れ入れ」
門扉が開き、その向こうで嗤う菖蒲が言葉を投げかけてきたからだ。薄紫色した浴衣姿で、紫がかった長い髪をさらりと流している。
「お、お邪魔しまーす! ほら壮介、行こ!」
乗じてキルコが門の中へと飛び込んだ。何やら忙しいやつである。
「お、おう。菖蒲さん、お邪魔します」
壮介も続いて歩を進め、門をくぐった。
同時に寒気。夜とはいえ真夏、それは決して気温のせいではなく。隣から。
「きしし。さて、楽しい宴の始まりよのう」
(…………!!!)
ぎらり、と菖蒲。嗤う鬼がそこには居た。
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