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街外れに寂しくそびえる館。昼間の太陽はその光を館に差し込ませようとするが、しかし打ち付けられた窓はそれを拒む。埃まみれの館内は薄暗く冷えていた。
そんな幽霊屋敷の廊下に足跡を残す男が一人。ぼーっと上の空。右手に持った禍々しい刃物は館の壁に当てられて、それをガリガリと傷つけている。
"死神殺し"、真川統は考える。
「暇だ」
早く人を殺したい。
ここ数日、否、数週間。館に閉じこもったきりである。
地獄で気ままに殺し歩いてから、悪霊マーロウは一度も殺人の機会を与えてはくれない。
「……物足りねえ」
ガリガリガリガリ、と。沸々とした苛立ちが壁を傷つける。
早くあのシスターに会いたい。
「……早く解体してえ」
他とは違った"特殊な死神"である金髪の彼女を、真川は忘れられなかった。
彼女をじっくりと解体して理解したかった。早く人間を理解したかった。
なのに、
「あ、ああああーーーーーー」
マーロウはこの館から外に出してくれない。暇で暇でもどかしくてもどかしくて、頭がおかしくなりそうだ。
ゴリ、と。太い音が壁を抉った。何人もの人間をバラした道具も、こんなところでは壁に八つ当たりすることしかできない。
と、そこへ。
「マガワ、何してるの?」
幼い声が問いかけてきた。振り返るとそこには、
「よお、タイニー。……なんでもねえよ」
子どもの姿の悪霊がいた。一見無垢な笑顔を浮かべている。
「お前こそなんの用だ」
一人間に過ぎない真川は、悪霊であるところのタイニーに恐れなど見せず。右手の魔道具を腰のホルダーへと戻した。
次いでタイニーは真川の問いに答えた。
「マーロウが集まれだって。前にマガワが地獄で見つけた"お土産"に手を出すんだって」
そして可笑しそうに言った。
「すごくうれしそうな怖い顔してるね、マガワ」
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