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「この大変な時期にそんなんでいいのかよ」
壮介はそうぼやいたが、しかし簡単に言い返されるのは自分自身わかっていた。
「そんなこと言ってもさー。仕事もらえなかったんだし、それに偽国に関しては調査とかは私の管轄外なんだもん」
とは言え、それはキルコ・コフィンズが典型的な指示待ち人間で積極性に欠ける、というわけではなく。
「執行部の私が下手に顔つっこんで全部台無しにするわけにはいかないでしょ?」
あくまで冷静に、大局を見ることができているが故であった。
「これはみんなの戦い、か」
いつかキルコが言っていた言葉が壮介の口から自然と漏れた。彼女もそれに頷く。
「そ。今私にできるのは地獄の仲間を信じることなんじゃないかなーって」
空になったコップを右手で弄びながら。キルコは前髪に隠れていない方の目、左の真っ暗な黒目で上を見た。
「とはいえ……」
何かを考えるような仕草で、彼女は「んーー」と喉を鳴らす。
「とはいえ、何だよ?」
キルコが黙考することが気になってしまった壮介は先を促す。すると、キルコは軽く縦に頷いてみせた。
「いや、他にも何かできることあるんじゃないかなって、急にそう思っちゃってさ」
で、思いついた、と。彼女はにまりと笑った。
「……ちょっと嫌な予感がするんだが」
理由はわからないが、壮介は彼女が言わんとしている考えを聞いてはいけないような気がして。しかし、そんな危惧はもはや間に合わず。
「ゲーム大会しよっ。菖蒲のとこにジェーンとかを呼んでさ」
「どういう理屈で!?」
待て待て待て、と。壮介はキルコへストップのジェスチャーを掲げた。
先ほどまで、手持ち無沙汰な自分たちでもできること、について話していたはずだが。
「どうしていきなりゲームになった!? お前がやりたいだけだろ!」
理解が追いつかないし、それにキルコや菖蒲を相手にテレビゲームをするなんて。考えただけでも壮介は身震いが止まらなくなっていた。
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