記録5 孤児院長

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――――――――――――――――  今日もようやく夜が来た。この頃は日が落ちるのが遅くて、子どもたちを施設内へ呼び戻すのに苦労する。  孤児院"天原園"の院長、時任達夫は蒸し暑さににじみ出た額の汗を拭った。  食事の時間も終わり、子どもたちは各々の部屋で時間を潰しているだろう。時任は灯りの点いていない職員室の窓から外を眺めていた。  見えるのは裏庭。そこには倉庫や何に使ったのか角材などが乱雑に置かれている。事故防止の為、「危険だ」と言いつけて子どもたちが立ち寄らないようにしている。  少し前までは、そのうち整理をしなければなどと思っていたのだが。今となってはそんな気は全くもって起きない。この状態である限り、事故防止という名目で堂々と人払いをすることができるからだ。  何故人払いなどするかと言われると。  「…………はぁ」  時任は裏庭の一角、新しい土が露出している部分を見つめてため息を漏らした。何かが埋められたような、そんな跡。  否、違う。時任自身が埋めた跡だ。無意識のうちに手が震える。  「院長せんせー」  突如、背後から声がかけられて。時任はびくりと身体を反応させた。振り返ると、子ども。  「……何か用かな?」  少しぶっきらぼうな言い方になっているのを自分でも気づきながら、時任は窓から離れた。幸い、この子は違和感には気づいていないようだ。  「夏やすみの宿だいで天気かかなきゃいけないんだけど」  この時期になると必ず一人は相談してくる内容を口にした。  「ああ、絵日記に天気書かなきゃいけないんだったっけ。ちゃんと毎日やらないとだめじゃないか」  窓から離れて子どもの立っている明るい廊下へ近づきつつ。叱るという程でもないが、軽く注意をした。  「ごめんなさいー」  と。ばつの悪い顔で、しかし自分を頼っていることがわかる目で。見られてしまっては首を縦に振らないわけにはいかない。  「よし、じゃあ明日一緒に調べようか。インターネットの使い方を教えてあげよう」  多分意味は理解していないのだろうが、  「ありがとー」  その子は満足そうに。廊下は走るな、の張り紙を目の前で無視して部屋で戻って行った。  それはただの日常で。  「へー、いい先生なんだね」  突然、背後の闇から投げかけられたその声は。  終わりを感じさせる音がした。
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