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ぴりぴり、と。全身の神経を警戒が走り回った。恐る恐る振り返ると、そこには。
「こんばんは」
黒い服に身を包んだ少女がいた。長い前髪で顔の右半分を隠すという奇怪な髪型のその少女は、事務机に腰掛けて手をひらひらと振っている。
突如現れたその少女に関して、いくつもの疑問が頭に浮かんだが。施設を管理する者として、まず言うべき言葉は決まっていた。
即ち。
「どこから入った」
孤児院の防犯が意味をなしていないとなると大問題である。時任は少女へ問いかけながら詰め寄ったが。しかし彼女は答えることなく、ただ首を横に振った。
「それを知っても意味ないと思うぜ」
新しい声が背後から聞こえた。出入り口の側にある電灯のスイッチを入れたのだろう、室内は青白い灯りに照らされた。
職員室と廊下をつなぐ引き戸の方を振り返ると、そこには青年。戸を閉めて、そして鍵をかけた。
「君たちは一体なんなんだ。どういうことなんだ」
混乱と焦りに囲まれて、時任は少女の方を振り返りつつ問いかけた。すると少女は左の腕を上げ、その手を時任へと向けた。
次の瞬間。
「っ!?」
目と鼻の先に金属の何かが出現していた。その形状は大鎌の刃を柄から取り外した状態のような。明らかに穏やかではない形をしている。
「こういうことだよ。私は死神、あなたの魂を地獄に連行します」
彼女の声が耳を通り、脳へと到達して、混乱した。意味がわからない。
しかし、
「裏庭のことも知ってる」
背後の青年の言葉は、時任のこめかみに汗を滲ませた。
そうだ。人の立ち寄らないあの裏庭には秘密がある。
死体が、埋まっているのだ。時任が自分で、その手で埋めたのだ。
未だに今の状況を理解できないが、しかしこれだけはわかる。
自分は今から報いを受ける。
目の前の不思議な少女は、その手の先に浮かべている不思議な鎌を振り上げて。
そして、恐ろしい刃物はそのまま姿を消した。
「え?」
てっきりあのまま殺されるものだと思っていた時任は驚いた。
「それじゃ、今から地獄法死刑神罰特例措置について説明するね」
少女は事務机から降りて、
「あそこの人、殺してないんでしょ?」
窓を指差してそう言った。
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