第1章

11/12
前へ
/12ページ
次へ
 ――あれ?  何も言わない。席に座る直前に見た顔は、目を見開いて口をきゅっと結んでいた。  ――妙だ。 「席について、早く!大事な話があります!」 いつもの時間に入ってきた担任はよそよそしく怒鳴った。みんな話を無理矢理切り上げて席につく。みんなが席に着いたのを確認して、担任はふーっと息を吐いてから切り出した。 「皆さん、大事な話があります。つい先日、深瀬さんが事故に遭い、入院中なのは皆さん知ってると思うけど――先ほど、息を引き取ったと連絡がありました」 数人の、大袈裟に息を吸い込む音が聞こえる。それを最後に、私の耳には何も届かなくなった。ただ、雪見の固まった肩や、担任の涙を流しながら話す姿は認めることができる。目が見えていれば行動できるもので、私は周りに合わせて帰る支度をしていた。時刻はまだ午前9時を回ったばかりだ。 「人殺し!」 廊下に出ると、そんな言葉が聞こえた。私はビクッとしてその方向を見た。しかし、きっと誰よりも顔を青くしていたのは私ではなかった。――篠田雪見だ。  なぜだ。なぜ、篠田雪見がそんなに怯えているんだ。亜利沙が死んだから?「今は、ICUの中だって。よかったね、死ななくて」なんて言いはなった奴が、いざ亜利沙が死んだら怯むの? それとも、「人殺し!」と叫ばれたから?いじめをするような人が、それだけで?実里を不登校に追い込んでもケロッとしてたのに?自分はそれよりもひどいこと、たくさんしてきたのに? 怒りとも悲しみともつかない感情が沸き上がる。今この手に刃物を持っていたら、きっと彼女を刺している。私は自分の感情に堪えられずに、階段を足早に降りた。  家に着いてからも収まらない。気休めにスマホを手にするが、ゲームはする気にならないし、見たいサイトもない。また、検索バーに思い付いた言葉を入力していた。  『いじめ』。  すると、トップにはつい最近、いじめを苦に自殺した中学生の話題。次も、同じ話題。次は――。  E県M市のいじめがひどい!今、急激に拡散されているスレッドとは  思わず開いてみる。まとめサイトのようだ。そこには、まさに私が昨夜投稿した内容、そして一部抜粋されたレスまで載っている。どうやら、私が寝落ちた後も、いくつかレスがついていたようだ。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加