第1章

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 次は主がいじめられるかもしれないんだよね?  >>6 の言う通り。いじめなんかに負けるなよ。いじめ返すくらいの気持ちで立ち向かえ!友達のためにも!  ――拡散されていたんだ。たった一晩で。私の知らない間に。元のスレを紹介したあと、まとめサイトはこう続いていた。  拡散された情報を見た人たちの中には、こんな人も  俺、このスレ主といじめっこ知ってるかもしれない。このいじめっこ、武原中2年2組の篠田雪見だと思う  こいつか。Twitterのアカウント出てきたぞ  Facebookもやってるらしいな  これだ。篠田雪見が怯えていた理由。ネットの力により探し出された犯人。晒された個人情報。そして――。  ――「人殺し!」そう叫んだのは、女子テニス部の先輩だった。あの朝練の日、篠田雪見のユニフォームは、女子テニス部の部室のゴミ箱に捨てられていたらしい。羽田則子のことを知らない後輩は、不信の目で雪見を見るようになった。同級生は、同い年のいじめっこより、いじめっこを標的にする先輩につく。テニス部ではない先輩も、後輩も、同級生も、二年二組には悪魔がいると囁くようになった。 「ねえ、悪魔が来たよ!」 ガラッと勢い良く教室の扉を開け飛び込んできたクラスメイトが、叫んだ。篠田雪見は俯きながら入ってくる。その様子を見ていると、篠田雪見は視線に気づいたのか、ふと顔を上げた。その瞬間ばっちり目が合ったから、私は彼女に笑いかけた。 「よかったね、あなたのことをよくわかってくれる人がいて」 あの時、あの子が私のスレを見つけたのは偶然だった。しかし、篠田雪見の名前を出してまであのスレを拡散させたのは、あの子がどうしたら彼女を止められるのか、よく知っている仲のいい関係だったからだ。 篠田雪見は、自分より目上の人や、大きな集団には逆らえない。それをよく知っていた。ただ、あの子はまだ学校には来ていない。もし来たら、お礼が言いたいな。  篠田雪見は鞄を机の横にかけると、ペンケースからカッターを取り出した。…ガリ、ガリ、という音が、耳に心地よく響いていた。
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