第1章

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 私は、亜利沙と帰ることがなくなった。今私の隣を歩くのは、篠田雪見である。 「よかったねー、亜利沙ちゃん、掃除当番代わってくれて!」 代わりを依頼したのは私じゃない。篠田雪見だ。亜利沙をヒトリにするために、篠田雪見は私をマークしている。私はただ、苦笑いを返すことしかできない。 非常に気分が悪い。篠田雪見に付きまとわれるということは、私だって充分ターゲットになりうるということ。亜利沙のことは引っ掛かる。でも、ターゲットになる覚悟なんて、私にはなかった。  私はただ、にこにこしていればいいんだ。雪見の指示に従って、雪見の側にいれば――幸い雪見は、私に亜利沙を直接いじめろと命令したことはない。私と亜利沙の間に入って、亜利沙から私を遠ざける。それだけだ。ずっと、そうして私が亜利沙を直接傷つけるようなことにならなければいい。  ――もし、直接何かしろと言われた時は、どうする?  「あら、彩菜、おかえりなさい」 「ん…ただいま」 リビングを通りすぎて、自室へ向かう。すると、後方から足音が追いかけてきた。 「もう、ご飯できてるから鞄置いたら食べにいらっしゃい」 「…わかった」 今日は、父は遅番の日だ。母と二人で囲む夕食。ご飯にお味噌汁、ポテトサラダに唐揚げが食卓に並んでいた。 「いただきます」と手を合わせたきり、無言の二人。やけに時計の秒針の音が大きく聞こえる。何か空気が妙だな、と思った矢先、母は唐突に切り出した。 「最近、何かあった?」 不意を突かれた私は、まじまじと母を見つめてしまった。 「なんで?」 対する母は、唐揚げを口に運びながらも私から視線をそらさずに「だって」と言った。 「だって、最近元気ないもの、あなた」 元気がない?私が?  確かに、亜利沙や雪見との関係はここ最近の悩みだった。しかし、目に見えてそれが様子に現れているとは思っていなかった。 「なんにもないよ」 突然のことに上手に対応できなかった私の頭は、そう言葉を紡いだ。おまけに笑顔まで作って、人間の咄嗟の行動って結構わざとらしいんだな、と感じていた。
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