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「亜利沙ちゃん!掃除当番代わってよ」
「亜利沙ちゃん!一緒にトイレ行こうよ」
「亜利沙ちゃん!金魚食べなよ」
「亜利沙ちゃん!」
「亜利沙ちゃん!」
ありさちゃん!
ありさちゃん
ありさちゃん
アリサアリサアリサアリサアリサアリサアリサアリサアリサアリサアリサアリサアリサアリサアリサ
アリサチャン!
気がつくと、終業のチャイムが鳴っていた。日は傾きかけている。近頃は残暑も和らいで、少し秋の気配すらしている。
「彩菜、どうしたの?顔色悪いよ」
雪見は通路に足を向けて、私の顔を覗き込んでいた。私は
「なんでもないの。変な夢見ちゃって」
なんて返答していた。雪見は「ふーん」と言って、足をぶらぶらさせている。本当に気分が悪い。今日一日、何をしていたか思い出せない。
「ねえ、彩菜」
その声に現実に引き戻された。私が「何?」と聞き返すと、雪見は嬉しそうに言った。
「ねえ、楽しいことしようよ」
彼女はどこからか持ってきたペンチを、私に向ける。彼女は「ほら」と言ってふわりと笑う。
ここは駐輪場。私の目の前には、亜利沙の自転車がある。
「うまくやる方法教えてあげる」
悪夢だ。まだ、私は夢の中にいる。そう思いたい。
「だからさ、このブレーキ、壊してみてよ」
額をツーと汗が流れるのがわかった。背中がひやりと冷たい。
どうする。どうするどうする。ここで断れば、雪見はどう思う?私はどうなる?従えば、亜利沙はどうなる?
すべて想像するのは容易かった。しかし、考えはまとまらない。どうしたの、彩菜。頭の中にこだまする。あの亜利沙の絶望した目が私を責める。どうしたらいい?どうしたら…。
「彩菜!」
私の足は、雪見を置いて走り出していた。背中に感じる雪見の気配が遠ざかっていく。ああ、最悪だ。これは、雪見に逆らったも同然。私も、終わりだ――。
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