第1章

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 身体に力が入らない。夕飯も喉を通らない。私は箸を置いた。 「彩菜」 母の声に被せるように電話の呼び出し音が鳴った。母は一瞬何かを言いたそうな顔をして、受話器を取った。はい、はいと返事をする母を背にリビングを出ていこうとした時だった。 「え、亜利沙ちゃんが…!?」 私の身体はピタリと止まる。またはい、はいと繰り返す母の声に思わず聞き耳を立ててしまう。結局それだけでは内容はわからなかったが、やがて母は受話器を置き、告げた。 「亜利沙ちゃん、事故に遭ったって」  自転車で、トラックに突っ込んだらしいよ。  詳しいことはわからないけど…凄いスピードだったって。  交差点のところの坂から下ってきて、そのまま――。  翌日の教室は、彼女の話題で持ちきりだった。あの時、私と雪見は二人きりだった。他に誰もいない。 「今は、ICUの中だって。よかったね、死ななくて」 雪見は、そう言って笑った。私は拳を握る。爪が手のひらに食い込んで痛い。それでも、その手を開くことはできなかった。 「残念だったね。しばらく学校に来れなくなって」 視界の色がなくなっていく気がした。なぜかその言葉は、次はお前だよ、と言っているように聞こえた。  助けて…。  疲れた…もうイヤだ…。  雪見の顔色を窺うのも、亜利沙が傷つくのを見るのも、自分の保身に走るのも。
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