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取り乱したままでのミユキの生返事を聞いたダイチが、いぶかしげな顔で硬直した。この時ミユキはようやく気付く。嘘を見破るどころか、こちらが嘘を付けなくなってしまったのだ。
「そ、そっか。まあ、別にいいけどよ」
ミユキは既に大失態を犯している。大した事じゃ無いと言う嘘をうっかりついてしまい、更にそれが嘘発見菌の効果でダイチにバレてしまったのである。今のダイチの反応ではっきり分かる。
(うわうわ、どーしよーどーしよー)
後に退く事も出来なくなり、大混乱に陥ったミユキは伏せた目線を更に泳がせ、時間を稼ぐのが精一杯であった。いっそこのまま10分やり過ごそうかとさえ思ったが、初デートではあるまいし、仮にそうしても以後ダイチに不審がられる事には違い無い。当のダイチは何が起こったのかと言った感じで、軽く頭を掻いている。
「なあ、ミユキ」
「…なに?ダイチ」
「何か話あんだろ?」
ダイチが一歩踏み出した。ミユキは言葉に詰まる。話の内容が大した事なのはもうバレている。
「…うん」
「細かい事は気にしねえで言えよ。な」
(あー!駄目だ!どうしよう?)
どうすればやり過ごせるかなんて、ミユキには分からなかった。
「時間は…あるからよ」
「うん」
しばしの沈黙。他の客の喧騒が、何とか2人の空気を保っていた。
「あのね、ダイチ」
「おう」
やがてミユキは決意した。どうせ何を言っても嘘がバレるし後にも退けない。それなら逆に本音でぶつかろう。嘘が分かるなら本当も分かるのだ。ミユキの表情がキリリと引き締まる。
「あのね、あたし、ダイチの事が大好きなの」
2人は既に付き合っているので、ミユキのこの発言には別段可笑しい所は無い。だが、嘘が嘘だと分かってしまう今のダイチにとっては、嘘偽り無い純粋なメッセージとなった。
「あ…おう。んだよ、照れるな…」
「でね、だからこそハッキリさせたい事があるの」
やはり斬り込むのに勇気が要るミユキと、空気が変わったのを察して発言を控えるダイチ。再び押し黙る2人。リンゴジュースが2人の間に置かれたが、2人は見向きもしない。
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