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「ああ、偶然の産物なのだが、いよいよこいつが日の目を浴びる時が来た様だな…いや、実際に太陽光に当たると良くないか…」
「マジ?マジで何かあんの?」
ミユキは人だかりの中心を覗こうとする通行人よろしく、レンの言う何かを一刻も早く知りたくて仕方が無い。恋に生きる乙女の必死さと言い、傍目から見てたわ言としか思えない発言を迷い無く信じる辺り、ミユキの純粋さ、そしてそれを信じさせるレンの科学力が、2人の様子から伺える。
「ミユキ、これがマジなんだ。いよいよ以って私もドラえもんだな」
「ドラミちゃんじゃね?女だし」
「成る程、これは一本取られた」
他愛の無いやり取りをしつつ、話題の何かを探しているのだろう、レンは机の引き出しを漁っている。紙の挟まったファイル、毒々しい色の液体が入った瓶、虫が何かの標本、謎の形状の金属具…隙間からちらつくそのいずれも、友人であるミユキには見慣れた代物だった。決して見たくて見ている訳では無いのだが。ミユキが待っていると、不意にレンが硬直した。
「は!」
「どしたの?」
「おいミユキ。女だからと言ってドラえもんでは無くドラミちゃんと呼ぶのは止めてくれ。あっちは欠陥品しか取り扱っていないじゃないか」
「どっちでも良いじゃん」
ミユキはどっちでも良かったのだが、10代半ばにしてその道を歩まんとしているレンにとってはドラえもんとドラミちゃんには大きな差があるらしい。ミユキに向けられたレンの真剣な眼差しが、それを存分に物語っていた。
「良くない。以降はドラえもんで頼む」
「そこまで言う?」
「言う。これは私のこけんに関わる要項だ。何ならメモを取って置いてくれても構わないぞ」
「あっはは、レンってやっぱ変わってるよねー」
「それは褒め言葉として受け取って置こう。さて、これがくだんの何かだ」
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