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サワサワサワ
まだ冷たい風が、彼女の行く末を案じるかのように吹き抜ける。
自給自足のラッキ村。
この村も、若者流出は避けられていない。
ピックもそうだが、この村から出ようとする若者が後を絶たないのだ。
そんな地図にも載っていない小さな村を出て行こうとするピック。
ふと、村の出口に立つ少女が目に入る。
木の陰に隠れるようにして、じっとピックの方を見ているからだった。
「あ、クーちゃん。来てくれたんだ。」
ピックはクーちゃんと呼んだその少女に駆け寄っていく。
「ピーちゃんの門出をせめて一目見ようと……。」
クーちゃんと呼ばれた少女の語尾がかすれていく。
「そうだね。クーちゃんのことは気がかりだけど、私が居なくても大丈夫だよね?
転んでも一人で起き上がれるよね。」
少女の両肩に手を置き、ピックはクーちゃんなる少女の目をまっすぐに見据えた。
「う、うん。私だって自分のことぐらい……。」
再び語尾が消え去りそうになる。
クーちゃんと呼ばれた少女は、ピックの家の隣に住む1個下の女の子だ。
ウサ耳のパーカー、長袖の胸開きの服にロングスカートを好んで履いているごく普通の女の子。
朱色の髪をツインテールに束ねて、よく転ぶちょっとお茶目な女の子だ。
隣同士という事もあり、姉妹のように育ってきた2人だ。
快活なピックに対して、おとなしそうなクーちゃん。
2人はしばらく見つめ合うと、ピックが視線を外す。
「じゃ、言ってくるね。クーちゃん。」
クーちゃんの肩から外された両手は、バックパックの肩紐を握りしめる。
ピックはそのまま振り返らず、片手をヒラヒラさせながら生まれ育った村、ラッキ村を後にしたのだった。
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