《22》

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 殆どが腐り、朽ちている板の隙間から、刺すような寒風が吹き込んでくる。 その風が、囲炉裏の炎を揺らした。 家とは名ばかりのあばら屋である。 本多正信は、着ている襤褸の前襟を右手で閉じ、囲炉裏に左手を翳して身震いした。  本証寺寺内町で集めた7百名の武士である門徒は皆、行商人の格好をしていたり、町人の格好をしていたり、正信のように襤褸を纏った食いつめ者の格好をしたりして、矢作川の西岸に潜んでいる。 突如、地から湧き出すようにして家康を襲撃する作戦だ。 魚屋の格好をした服部半蔵を見た時に思いついた。  やるだけやった、と空誓に思わせてやりたい。だから、最後、良い決戦をしたい。空誓の為、そして家康の為にも。 この決戦、正信は先頭に立つ。自分は死ねばいいのだ。極楽浄土へ行けるので、死ぬのはかまわない。阿弥陀様が必ずや導いてくれる。正信はそう信じ続けた。  良い決戦をする為には、できるだけ戦力は拮抗していた方がいい。だから、荒川義広を一向宗側に引き込んだ。 その荒川義広が、昨夜死んだ。 本多忠勝率いる騎馬隊、黒疾風に完膚なきまでに叩き潰された。 荒川義広は500の兵を率いていた。本多忠勝の騎馬隊は僅か50騎だという。10倍からの兵を率いていながら、荒川義広はたった1夜で跡形もなく潰された。 正信にはちょっと信じられない事だった。
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