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正信が知る本多忠勝は荒いだけの小僧っ子だ。それがとてつもなく大きな武士(モノノフ)へと変貌を遂げている。
榊原康政もしかりだ。
ちょっと小賢しいだけの小僧だった榊原康政が夏目吉信を変心させ、戦局は一気に家康の圧倒的優勢に転がり始めている。
そういった事全てが、家康という男の器なのだろう。
本多忠勝も榊原康政も、感じているのだ。家康こそが乱世を終わらせる事のできる男である、と。
だから、必死に働く。そして、体の奥に潜めていた力を覚醒させる。
そんな若き力を目の当たりにし、熟練の者共が更なる力を発揮する。
家康が率いる三河武士団は闘いを重ねるごとに強くなっているような気がする。
家康の三河支配を確固たるものにしたくて、正信自身が始めたいくさだった。ぎりぎりで信仰を捨てきれなかった。
いや、と正信は首を横に振った。阿弥陀様を恐れたのだ。仏罰が心底恐ろしかった。
そんな物あるわけがない。形あるものが一番強い。家康に仕えてそれが見えた。見えたつもりだった。
家康に仕えてから、新しい自分自身を見つける事ができたと思っていた。
その実、正信自身は何も変わっていなかった。今も昔も、頭でしか物を考えられないただの臆病者。それが、自分だ。
三河に巣食う三河一向宗という病巣を取り除こうと動くなかで正信は、嫌になるほど自分自身の小ささが見えてきた。
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