《4》

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 信長よ、お前はわしの踏み台に過ぎぬ。 せいぜい登るがよい。 奪ってやる。登り詰めた所で、この秀吉がお前の全てを。 秀吉の奥歯が軋み、音を立てた。 「水野」 「はっ」 信長から声を掛けられ、水野勝元が緊張した声音で返事をした。 「竹千代(元康の幼名)は名を変えたそうじゃな」 「はい」 水野勝元の声が裏返る。 秀吉は信長の草履の下で水野勝元を見た。 肥満体型の勝元は顔に大量の汗を浮かべている。 「我が甥は足利家より編偉を賜り、今は松平元康から松平家康(イエヤス)と名を変えております」 「今川からの独立、か」 信長が言って、秀吉の頭に乗せていた足を外した。 秀吉は水から顔を上げた時のように空気を深く吸った。 「最近、北の国境では義龍が随分と煩くなってきている」  松平の使者、本多正信のこめかみが少しだけ動いた。 最近、頻繁になってきた美濃の斉藤義龍の牽制はこの本多正信という男が何やら絡んでいるのかもしれない。 「石ヶ瀬川の陣は払ったそうじゃな」 信長が言うと、もう一人の松平の使者、石川数正が応えた。
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