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「北に斉藤、東に今川」
正信が続けた。
「いくら織田様に日の出の勢いがあろうと、複背に禍を抱えるは下策。我が松平家が東の蓋になりましょう」
「ぼろい蓋では役に立たぬぞ」
「ぼろいかどうかは」
「どうやって試す?」
信長の声が正信の言葉を遮った。
「わしにとって竹千代が役に立つかどうか、どうやって試せばよい?」
本多正信は黙り込んだ。
信長は面白がっている表情で正信を見ている。
「今回は帰るがよい」
信長が言った。
「織田様」
石川数正が泣くような声で叫んだ。
「帰るがよい」
信長が繰り返した。
石川数正はまだ何か言いたそうだったが、口をつぐんだ。
本多正信は無言で無表情だった。
翌日の昼、信長から家臣たちへ召集がかかった。
清洲城、大広間に秀吉は出仕した。
柴田勝家、滝川一益、丹羽長秀、池田恒興、などを始めとした家臣たちが続々と顔を揃え始めた。
秀吉は広間の後ろの方に座った。
「よ、藤吉郎」
秀吉を昔の名前で呼び、隣に腰を下ろしたのは友人の蜂須賀小六だった。
「おう、小六」
「元気か、藤吉郎」
「ああ、なんとかな」
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