《4》

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 秀吉が草履持ちとして信長の傍に仕え始めてからもう5年が経つ。 小六と会ったのは久しぶりのことだった。 「随分と苛められているらしいな」 小六が満面に愛嬌のある笑みを浮かべた。 「なんということもないよ、小六」 「そうか。また酒でも飲もうや、藤吉郎」  蜂須賀小六との会話は秀吉の心を和ませた。 疲れている。ほっとした気分と共に秀吉は自らの心労を自覚した。  駄目だ駄目だ。しっかりせえ秀吉。これからわしが相手にしてゆくのは、天下だ。 織田信長ごときに心労を感じてどうする。 情けないぞ。秀吉。と、改めて自らを鼓舞した。  家臣たちが一斉に、床に頭を着けた。 小姓を伴った信長が広間に現れた。 「皆、面を上げよ」 信長の声を合図に皆が顔を上げる。 信長は一段高い畳に置かれた茵に座り、肘掛けに凭れるような姿勢で皆を睥倪している。 「昨日、西三河の松平家から使者があった。竹千代、いや松平家康は、なんでもわしと盟を結びたがっておるらしい」 「恐れながら」 口を開いたのは丹羽長秀だった。 信長が長秀に向き、顎をしゃくった。長秀が頷いてから喋り始める。
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