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秀吉が草履持ちとして信長の傍に仕え始めてからもう5年が経つ。
小六と会ったのは久しぶりのことだった。
「随分と苛められているらしいな」
小六が満面に愛嬌のある笑みを浮かべた。
「なんということもないよ、小六」
「そうか。また酒でも飲もうや、藤吉郎」
蜂須賀小六との会話は秀吉の心を和ませた。
疲れている。ほっとした気分と共に秀吉は自らの心労を自覚した。
駄目だ駄目だ。しっかりせえ秀吉。これからわしが相手にしてゆくのは、天下だ。
織田信長ごときに心労を感じてどうする。
情けないぞ。秀吉。と、改めて自らを鼓舞した。
家臣たちが一斉に、床に頭を着けた。
小姓を伴った信長が広間に現れた。
「皆、面を上げよ」
信長の声を合図に皆が顔を上げる。
信長は一段高い畳に置かれた茵に座り、肘掛けに凭れるような姿勢で皆を睥倪している。
「昨日、西三河の松平家から使者があった。竹千代、いや松平家康は、なんでもわしと盟を結びたがっておるらしい」
「恐れながら」
口を開いたのは丹羽長秀だった。
信長が長秀に向き、顎をしゃくった。長秀が頷いてから喋り始める。
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