《4》

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「何やら、悪戯を思いつきましたな」 色の白い老臣が口を開いた。織田家筆頭家老林秀貞だ。 「で、あるか。秀貞」 信長の口癖、で、あるか、が飛び出した。機嫌が良い証拠である。 「私は御館様が子供の頃からよく見てまいりました」 林秀貞が愉しげに続ける。 「眼を見ればよくわかります。また、我ら年寄衆を冷や冷やさせようと企んでおりますな」  信長はうつむき、くくっと笑い、「で、あるか」と言った。 「何を御企みですかな」 林秀貞が言って、座ったまま上体をにょいっと前に出した。 「水野よ」 信長が言う。 水野信元が返事をした。 「石川数正と本多正信はどうしておる。もう岡崎に帰ったのか」 「いいえ」 水野信元が言った。 「清洲城下の旅籠に泊まっていると聞いておりますが」 「使いを出し、伝えよ。明日、わしが会いたいとな」 言って、信長が立ち上がる。 「年が明けたら、竹千代と遊ぶ。本日は解散」  信長が森蘭丸を伴って、辞去した。一同、頭を畳に擦り付ける。  信長は何をする気なのか。秀吉は考えた。信長の足袋が眼の端に見えた。 松平家康はどれほどの覚悟でこの怪物と盟を結ぶ決意をしたのか。
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